お庭のこれまでとこれから 文章|塚口紗希
三田学園に共鳴し
サントアンが幹線沿いアパートの1階のテナントから今の場所に店舗を移転して25年が経ちました。向かいに建つ三田学園は、戦後初の神戸市長を勤めた小寺謙吉が旧三田藩の藩校・造士館の理念を受け継ぐとともに、英国式近代教育を導入した学校創立をめざし、明治45年に創立されました。創立当時の校舎はイギリスの名門イートンカレッジを模したもので、国の登録有形文化財となっています。
移転先となる店舗を新築するにあたり、三田学園が古くから名門校として地域の歴史を紡いでこられたことへの敬意と、イギリスのイートン校をモデルとした先見に共鳴し、私たちはイングリッシュカントリーの建物にすることを選びました。年を経るごとに深みが増す店舗外観は多くの方に愛されています。
始まりは自ら庭仕事
創業者の塚口肇はイギリスの代表的な建築と庭をたくさん見学してまわりました。建物だけでなく、エリア一体の空間を担う庭に注力することになったのは自然な流れだったでしょう。そこから、代表者自らの手によるガーデニングが10年以上続きます。
毎日のように庭仕事をしていたので、お客様からは専属の庭師さんと思われ、何度も労いの言葉をかけてもらったそうです。お菓子作りをせずに庭仕事をしている本人が、まさか代表者とは言い出せず、何度もお客様と調子を合わせたという楽しいエピソードは長年サントアンに勤めるスタッフの語り草になっています。その甲斐あってか、今では庭を楽しみに来店くださるお客様も多く、スタッフみんなの自慢の庭です。
落ち葉掃除や草取りが大変だと感じる時もありますが、本物にこだわり、季節の移ろいを重んじて、自然から学ぶ、サントアンのお菓子づくりや商いの姿勢を表現しているように感じ、葉っぱたちを愛おしく思うことが増えました。庭の木漏れ日ベンチに腰をかけ、ソフトクリームを片手におしゃべりの花が咲いている様子を見ると、私まで幸せな気持ちになるのです。
庭に植えられた植物には、お菓子と同じく、私たちに季節を伝え、安らぎや喜びをもたらす大切な役割があると考えます。緑があるということは、肥沃な大地と適度な雨があり、過ごしやすい気温であることを示します。動物が集まり、穀物や野菜など農作物が採れる、豊かな生活を思い起こすのです。自然によって生かされてきた人間にとって、緑は生命の安全と安定を直観的に感じるのでしょう。
これから
この数年、さまざまな角度からサントアンを見つめる作業を重ねてきました。お菓子づくりだけではない側面からみた時、私たちの店舗が地域社会に還元できることはなんだろうか。このエリアを誇りに思うことができる店舗のあり方とはどんなものだろうか。
遠くから運びこんで作って壊すのではなく、これからは地域本来の要素や特徴、動植物の生態を保存するような、そこにしかない店舗のあり方、庭作りを目指したいです。
庭が見ごろ
毎日さわやかな気候で過ごしやすく、少しずつ夏が近づいてきました。サントアンの庭にも季節がめぐって草木生い茂り、いろんな花がつぎつぎに咲き、最盛期を迎えています。庭の管理を引き受けてくださっている矢羽野(やはの)さん「5-6月が見頃ですのでぜひ足をとめて楽しんでほしい」とおっしゃいます。庭師の矢羽野さんについては、7月のサントアンレターで詳しくご紹介します。どうぞお楽しみに。